2003春のツアー RED ROCKSのロングルート


Shinichi & Hiromi Izuchi



Mt.Wilson (左)と Raibow Mountain

 2003年3月後半、米国ネバダ州の「レッドロックキャニオン」を訪れた。
 レッドロックスといえば冬場のスポーツクライミングエリアとして有名だが、今回の目的は日本ではそれほど知られてないマルチピッチのロングルート。
 お目当てのルートは、

  「Epinephrine (アドレナリンの類) 5.9+  18pitchs」
  「Prince of Darkness (闇の王子様) 5.10c  6pitchs」
  「Crimson Chrysalis (深紅の蛹)   5.8   8pitchs」  の3本。

 どれもアメリカ国内では名の通った「クラシック中のクラシック」みたいなルートで、みなそれぞれに印象的だった。
 出発日にイラク戦争が開戦になるという絶妙の社会情勢ではありましたが、「まあ何とかなるだろう」てな感じで出発。案の定、アメリカ人も戦争そっちのけ(?)で、岩場もカジノもたいへん盛り上がっておりました。
 




 Black Dagger 5.7  8pitchs


 

 レッドロックス入りした初日、予定では軽くスポーツクライムで調製をはかるはずだったが、なんとなく体調も良さそうなので、「Crimson Chrysalis」でもやっとくか!とJuniper Canyonに向かって歩き始めた。が、アプローチ1時間の取り付きでは、すでに順番待ちの大行列ができていて、我々は6パーティー目。なおかつ先頭パーティーはまだ1ピッチ目に居る。さすが人気ルート! というわけで、キャニオンの奥のほうに見えてる大きなコーナーが印象的なBlack Daggerに転進を決定。 近そう見えていたのだが、さらに1時間以上の急なアプローチで完全に疲労困憊。炎天下のアプローチは、時差ぼけの体に実にこたえる。
 「初日からこんなに疲れていていいのだろうか。」 もくろみの甘さを後悔。



  さて、「Black Dagger」 は、レッドロックスのマルチのなかでは比較的珍しい完全なナチュラルプロテクションのルートであり、2個所のビレイ点以外には残置物はなかった。アプローチが遠いのでそれほど人気は無いようだが、内容は濃い。5.7とはいえ、ランアウトのフェイストラバースあり、オフィズスありで、充分に大変だった。
  終了点からは歩いて下降、駐車場までまた2時間以上かかってしまい、初日としてはウォームアップになりすぎてしまった。


black dagger 4p目のオフィズス


Prince of Darkness 5.10c  6pitchs



  

  前日の「Black Dagger」の疲れを引きづりつつ、5時起床。体がちゃんと動くことを確認してから車を走らせる。「Prince of・・・」も大変な人気ルートなので急がねば。でもダートの駐車場にはすでに数台の車が停まっていた。
  このルートのあるBlack Velvet Wallは、数あるRed Rocksの壁の中でも、もっとも「信じがたい」壁であろう。垂直に近い真黒でつるつるのフェイスが、一見なんの弱点もなく250mにわたってせり上がっている。これが登れるとは思えない。しかし実はその壁の上から下まで、ずっと途切れることなく細かいカチホールドが延々とちりばめられているのである。であるから、クライミング内容は「右手カチ、左手カチ、右足ハイステップでぎゅーっと立ちこむ」といった動作を250mひたすら繰り返す、といった内容となる。これを楽しいと感じるかどうかは人それぞれだと思うが、まあ一回はやってみるカチはあるだろう。

 必要なギアは、ヌンチャク16本とエイリアンが多少。
 幸い2番目で取り付くことができた。(後ろには最低でも4パーティーぐらいいた。)前のパーティーもそれほど遅くなく、快調にロープを延ばしていくはずだったのだが・・・。昨日の疲労は予想以上に大きく、この6ピッチは大変につらい物であった。下降が終了するまでは緊張感でなんとか持っていたが、地面に降り立つなりヘナヘナと崩れ落ちるように座り込んでしまった。
 

2ピッチ目
 まあいいや。とりあえず、目標ルートの1本は登れたし、明日はレスト。今夜はベガスに出てカジノの「バフェィ」でステーキ食べ放題($12)にでも行こう!





    Black velvet wallの下降 → 
上部に、Prince of ・・・のパーティーが見える。
 
  



It's VEGAS、Baby!
  ラスべガスの街には、想像を絶するすごさがあった。賭け事や繁華街にまったく興味のない私たちも、メインストリートを車で通った夜から、もうそのすごさに完全に心を奪われてしまった。「偽物なのに異様な迫力!」「ド派手でびっくり!」「趣味が良いとは言えないがとにかく凄い!」「バカバカしいのに嬉しい楽しい!」「ゴージャス最高!」「ここまでやればもうさすが!」どんな形容で表現したらいいのか分かりませんが、とにかく一見の価値はあります。(注:写真でこの面白さは伝わりません)
 ロングピッチのルートばかりをやりに来た私たちの朝は早く、3時や4時起き。そのため夜遊びに出掛けられる条件は、翌日がレスト日であること。一日14時間行動で、歩いて、登って、歩き回って、ヘロヘロになっていてもベガスの街へ出掛けた。この街には、それほどに確かな魅力があったのだ。 (ひーちゃん)






Crimson Chrysalis 5.8  8pitchs




  大変な人気ルートのため、毎朝一番のり争いのレースが繰り広げられるらしい。初日に順番待ちで登れなかった反省に立ち、しっかり作戦を立て用意周到でその日に臨んだ。
  まず、6時に開く公園へのゲート前に、5時20分に到着。ポールポジションゲット。そこで朝食を済ませ、パッキングも足ごしらえも完璧に整えて待つ。開門までに6台ぐらいの車が後ろに並んだ。
 そして開門ダッシュ。2台目の車が遅かったおかげで独走態勢で13mileを走りきりパーキングに到着。一番のりでトイレに駆け込む。(トイレに紙は無く、幸い自分は紙を手に持っていた。後続パーティーは紙探しで時間をロスするだろう!)そしてすぐ出発。そのころには続々と車が入ってきて、「Goood Morning」とか言いながらもみんな顔が引きつってる(トイレに行きたかっただけかも)。
 出発では大幅にリードしたものの、歩き始めるとやはり連中の方が早い。こっちはひやひやだが、アネゴは悠長に「ちょっとトイレ」とか言ってのんびりしてる。それでもなんとか一番乗りで取り付きへ。すぐに取り付きには5パーティーぐらい集まってきて、大変なにぎわいとなった。ギリギリで朝のレースを制することができた。
 ルートは素晴らしい高度感で、それほど難しくなく危険でもないがエキサイティングなピッチがずっと続き、人気ルートになるのも分かるという感じだった。下降は同ルート下降のため、全部の後続パーティーにご挨拶し、ビレイ点の場所を開けてもらいながら降りていく。取り付きに降り立つと、犬が一匹主人が降りてくるのを待っていた。

3ピッチ目ぐらい

6ピッチ目ぐらい

終了点にて



Epinephrine 5.9 18pitchs







  「これを登りに来た」といっても過言ではない。R&I誌の別冊で「America's 50 Favorite Climb」にも選ばれているし、スーパートポのクリス=マクナマラも 「このグレードとしては世界で最も素晴らしいルートの一つ」と書いてる。また同時に、「スーパーマンじゃない人間が、一日で登って降りてくることができる最長の壁」という評価も。とにかく名ルートである。
  ルートは、下部の5ピッチにわたる美しいチムニーが核心。そこから傾斜の強いフェースを登っていき、やがてノーズの上部を思わせる大きな凹角に入る。いくつかのハングを越えて、やがて傾斜の落ちたランペをたどって壁の右肩に抜ける。
  朝4時起床。5時に歩き始め、6時取り付き。壁の終了が16時。そこから延々と歩いて駐車場に戻ったのは、ヘッデンが必要になる一歩手前の18時半だった。あの下降を考えると、暗くなる前に帰れて本当に良かった。心身ともにぼろぼろになる。
 

4ピッチ目 5.9のチムニー  55m!
  駐車場で飯を食っていた兄ちゃんに「Epinephrine登った。」と言ったら、「おお、おれたちも昨日登ったぜ。それにしてもお前らめちゃ早いなあ。俺たちがよれよれになってここに戻ったのは8時半だったよ。」だって。チムニーのピッチが怖かったり、夕闇迫る中で右往左往したり、疲れてよれよれになったりした体験を共有しているというだけで、話さなくても友達になったような気持ちになれる。これだからクライミングはやめられない。

  今日は最終クライミング日。この後ベガスに繰り出したのは言うまでも無い。

6ピッチ目のチムニー 5.8

7ピッチ目 右上にルートの上部が見える


11ピッチ目 ヘッドウォールのコーナー



§§ RED ROCKS TIPS §§

 文中にあるようなマルチピッチを登る場合、基本的にロープは50m以上が2本必要になる。ギアは、ナッツ1セット、カムの小から中ぐらいまでが2セットと大が1セットでほとんどのルートがOK。ルートによってはヌンチャクが16本とか必要。 紹介した以外のメガクラシックとしては、「Levitation29」5.11、「Dark Shadow」5.8 などが超有名。
 キャンプ場はサイトごとにテーブルとバーべキューグリルがあって、トイレもきれいでなかなかだが、1サイト$10と高め(ただし、2張8名ぐらいは可能)。木は1本も生えてないので、昼間は地獄と化す。水道らいしものは一応あるが、飲み水は買ってきたほうが無難。サイト数は結構少なく、春と秋のシーズン中は、場所とりが難しくなる。特に週末に入る場合は、ホテルを取ったほうが良いかもしれない。最寄のショッピングセンターは、岩場から10km程度。スタバとかもあって、のんびりできる。
 レッドロックスは、ラスベガス中心から20km程度なので、キャンプが面倒ならホテルから通っても問題なし。ダウンタウンのモーテルなら、2人部屋で$30ぐらいからか。
 文中にもある「バフェイ」とは各カジノにある食べ放題レストラン。カジノによって$7〜$30
ぐらい。人気のバフェイは、週末だと1時間待ちとかザラらしい。バフェイに限らず、ベガスにはありとあらゆる食い物屋があって、お金さえ払えばどんなうまいものでも食える(と思う)。
 ギアは、岩場から街へまっすぐ走った通り沿いの Desert Rock Sportsでたいてい揃う。同じ建物にジムもあって、シャワーが使えるらしい。
 岩場の大半は公園内にあって、夜はゲートがしまってしまう。時刻をすぎると罰金を取られるらしい。公園に入るのに、1日車一台あたり、$5かかる。人数が少なく滞在が長いと、これはかなり大きな出費となるだろう。
 今回はLA発着便で出掛けたが、ベガスまでのんびり行っても6時間ぐらい(ヨセミテよりだいぶ近い)で大したことない。JOSHUA TREE とはしごするのも良いかも。

 

LA-VEGAS間の宿場町Baker の「Mad Greek Cafe」 にて