Half Dome Reguler Northwest 5,12orC2 |
2003年9月14日から15日
メンバー大関、堀場(名古屋AC)
記録 大関
ヨセミテ国立公園のシンボルともいえる巨大な卵状の岩峰。それがハーフドームである。 正に卵を割ったような形をしており大自然の造形力に驚異を覚えるがクライミングの聖地であるここヨセミテでは当然この切り立った岩肌も登攀の対象になった。 この垂壁に近い600メートルの壁に巧みな弱点を付いて登られたのがReguler Northwestである。その初登者はかのロイヤルロビンス。1957年というまだ登攀具もまともでない時代にその偉業は成し遂げられた。 当時何日もかけて開拓された古典ルートであるがスピードクライミングが広まった現在1day Ascentの入門ルートとして今でもその人気とルートの定評さは変わらない。まさにヨセミテのロングマルチを代表するルートである。 今回はフリー主体で登る予定で取り組んだが23ピッチと長く、人工手段に頼る他ない高グレードのピッチも含まれる為、無理せず2日間の登攀で登り切ることにした。 9月13日 Teneya bridgeの手前で右に折れトレイルをひたすら歩く。ハーフドーム基部へと続く廃道は歩いて20分ほどらしく分岐点にはケルンが積んであるとのこと。しかし30分近く歩いてもなかなかそれらしき目印はない。いつの間にかTeneya Lakeも通り過ぎているようだ。少し引き返し干からびた湖の真ん中からハーフドームを眺めて見る。 どう考えてもこの手前辺りなのだが…。再びトレイルの戻りよくよく見てみると湖の標識少し手前に崩されたケルンの跡らしきものがありそこからうっすら道が続いている。 どうやらこれらしい。 |
ハーフドーム北西壁の基部。 でか過ぎてスケールが分からん! |
下部スラブの基部までは10分ほど。そこからガリーを曲がりくねった狭いカットウオークを進む。 時々残地ロープがあり道を間違えることはなさそうだが流石にこの時間になると午後の日差しがモロに当って暑いの何の。 いきなりバテそうだ。 最後のガレ場を詰めるとハーフドームの基部に到着。下から見上げる北西壁はとてつもなく巨大に見える。基部から東側に15分ほど上がりRegulerルートの取り付きに到着。 ここまで約3時間、ほぼ予定通りだ。 |
付近はどこでもビバークできそうだが上から色々降ってきそう何だか怖い。 ルートをよくよく見てみるとどでかいホールバックと共に降りてくるパーティがいる。 どうやら日本人ようだ。話を聞くと都岳連の登研パーティの方々で時間切れで敗退してきたらしい。 オイラ達も時間の節約のために1Pフィックスを張ることにした。 こーゆー仕事は若いモンに任せてオイラはビレイヤー。堀場君気合入れて登るが上部で落ちてしまった。 フィックスを終えロープを固定する頃には日も暮れてきたので簡単な夕食を済ませる。 登研の方達に水とツマミを分けてもらい結構助かった。 |
Regulerルートの取り付き。 バイザーははるか上。 |
彼らは熊よけに食料をホーリングしていたがオイラ達は枕代わり。 熊に見つかったら頭ごと食べられるかもしれん… 星が綺麗だがやっぱ寒くて夜は何度が目が覚めた。 9月14日 井倉さんにお借りした時計はタイマーセットが分からずいきなり寝坊の大失態!ドタバタと用意と朝食を済ませ堀場君が先にユマーリングで登ってゆく。 |
4P目の人工をゆく堀場君。 |
1P目、オイラも続くがいくら軽量化を図ったといえども水6リットル、その他ビバーク用具、食料を合わせると結構な重さになるので朝一のセカンドユマーリングは激エラ! 2P目、傾斜のきつい凹角のクラックを登る。約30メートル。風がないので朝でもそれほど寒くなく助かる。 3P目、5,8のハンドクラック。結構快適に見える。 4P目、11ノーマルのフェイスとクラック。堀場君順調に高度を稼ぐが多少悪いトコもあるようでブツブツ言っていた。 5P目、ここでトップ交代。不安定なビレイポイントでは荷物の受け渡しを慎重にする。多少悪いフィンガークラックがあるが凹角状なのでプロテクションは安心して取れる。 6P目、同じくフィンガークラックが続く。途中右に折れるのでロープの流れから結構ランナウトする。どでかいテラス前の終了点へ。 |
7P目、迷いやすいピッチらしい。 傾斜の緩い凹核を詰める。30メートルほどでのクラックに入るらしいが手前でも切れるらしく立木にスリングが巻きつけてあった。 ここから右のカンテに綺麗なクラックが続く。傾斜はキツイがバッチシジャムが決まるので問題ない。60メートル一杯で終了点の立木まで伸ばす。 8P目、ここから右のSteep Wallに移るのだがライン取りがややこしい。 Steep Wall下のごちゃごちゃしたガレ場のテラス上にボルトラダーが見える。ぎりぎりロープが届きそうな距離なのでロープの流れを考慮しながらボルト下のフレークテラスまで行くことにした。 ガリーを横断するトコが多少いやらしいもののガレ場に入ってしまえば問題はない。 |
足元は数百メートル切れ落ちてる!1回だけなら飛べるケド… |
果てなく続きそうなフレーク チムニー。 |
ロープがフレークにひっからないようにしてボルト下の終了点まで。 流石に荷物を背負ったセカンドはトラバースだけに苦労していた。フォローとユマーリングを使い分けて登る。 これで2P繋げる事ができた。 10P目、堀場君にトップ交代。ボルトラダーを人工で、その後振り子でRobinns Traverse。 フォローのオイラは慣れない振り子の回収に手間取る。 11P目、イヤらしいトラバースをこなして幅50センチほどのテラスへ。 ここはビバークポイントでもあるので結構快適。 12P目、チムニールートだが左の11Cのフィンガークラックを人工で。日が結構傾いてきた。急がねば… 13P目、いよいよチムニー突入。上を向くとかなり被っている。見た目だけだと12くらいありそうだ。 |
堀場君頑張って登るが途中で日が暮れる。しかもチムニーの中は余計暗い為ホールドと残地を手探りで探しうんうん言いながらも高度を稼ぎ何とか2P繋ぐ。(ヘッドランプをつけていかなかったのは失敗だったようだ。)オイラがユマーリングする頃には完全に夜になってしまった。 チムニーも途中から狭くなっているので当然ザックを背負っているオイラも大変。ビレイループに荷物を垂らして上がるがやはりひっかかる。しかもチムニー奥にセットしてあるプロテクションは回収がしづらく悪戦苦闘した。 15P目、ここでオイラにトップ交代。掘場君お疲れ様。 もう1P残ったチムニーをフリーで突破。体もかなり疲労してきたが山ヤモードの切り替え頑張る。 16P目、傾斜が落ちて5,9の快適なハンドクラック。結構大きなフレークバンドまで。 あと1Pでビバーク予定のBig Sandy Ledgeというところだが次のピッチが暗くて良く分からない。ここから右にトラバースするのだが少し行ってみるとフレークが切れ落ちてきてどうも違う。トポと照らし合わせてみると終了点は間違いないのだが…。 2人ともかなり疲れていたので相談して今日はここでビバークすることに。少し狭いが何とか横になれた。体が少しはみ出た下は500メートル近く切れ落ちている。 まさに気分は岩雲雀! 寒かったが流石に疲れていたので朝まで爆睡できた。 |
9月15日 朝は寒さで目が覚めた。 もぞもぞと起き出し朝食を済ませ出発準備をする。次のルートはすぐに分かった。 どうやらもう一段下のレッジだったようだ。寒さの為出発作業が捗らず日が少し登ってから登攀開始。 17P目、レッジをトコトコ歩いてダブルクラックへ。 登るにつれクラックが広がりオフィズズサイズになるが次第に難しくなりどう考えても5,9のグレードではなくなる。 |
ビバークレッジでの朝。 寒くて体動かん。 |
Zig Zagsに突入。先が見えてきた! |
横を見てみると右下から安定したレッジが続いている。どうやら登りすぎたようだ。 キャメの3,5番をクライムダウンセットしながら右へと移る。余計な労力を使ってしまった。畳4畳ほどの快適なLedgeへ。 確かに4人ほど寝れそうだ。 18P目、ここで堀場君と交代。フレーク側壁に走る11dの綺麗なフィンガークラック。上に行くほどハングしてくる。難しそうだ。 堀場君人工で突破しZig Zagsへと突入。フレーク下、側面のクラックに沿って登ってゆきもう1ピッチ繋げる。ヨセミテらしい迫力あるすっきりとしたピッチだ。 ここのユマーリングは早かった。60メートルを15分で稼ぐ。下を見ると凄い高度感! |
Big Sandy Ledgeがみるみる小さくなっていく。フレーク内にある洞穴のようなレッジが終了点。 洞穴からはEl Capもよく見える。風が出てきてフリース着てもをかなり寒い。 20P目、石柱状になったフレークに走る11dのフィンガークラックをゆく。堀場君順調に登ってゆくが途中千田さんに借りたハイブリッドエイリアンの青緑がスタックし泣く泣く残地。 21P目、オイラがトップに交代。いよいよThank God Ledgeへ。 幅30~50センチほどのレッジの上をひたすら四つん這いでトラバースしてゆくのだがレッジが微妙に外傾しているため吐き出されそうになる。 止む無く途中から足を外に投げ出し右手でジャムを決めながら進む。 |
19P目のレッジから。 El Capもよく見える。 |
20P目、11dのフィンガークラックを登り詰める |
レッジが終わるとすぐにオフィズズ。 1,2手で終わってしまうが被っているため上のガバを取るまでは気が抜けなかった。 これを越すと安定したテラス。終了点はピトン2本だけだったのでエイリアンを2本追加する。 フォローは荷物がある為このピッチがかなり大変そうだった。山頂が近い為か風が強く寒くて鼻水が止まらない。 はよ上に抜けたい… 22P目、ボルトラダーだがなぜか遠い!出だしからいきなりスラブのフリーで悪態を突いてしまう。上部で振り子、傾斜の緩くなった所のレッジが終了点。 山頂のバイザーがとてつもなくでかい。 |
よく見ると山頂から顔を出したハイカーが手を振っている。こんなコトやってもオイラ達は多分変人だと思われているんだろう… 23P目、ルートはレッジを左側に下り直上するピッチと上部に続く左にトラバースしたフレークをゆく2つがあるが後者を選ぶ いよいよ最終ピッチ!残地とカムを織り交ぜランナーをとってゆく。スラブが終わり巨大な階段状のテラスを登りきるとハーフドームの頂上に着いた。 時間は午後3時半過ぎ。 堀場君も順調にユマーリングしてくる。ようやく寒い壁から解放され午後の日差しが暖かい。 残った食料と水を片付けギアを整理すると頂上を後にした。 足に出来たマメの痛みと共にやっと終わったという安堵感がこみ上げてきた。 |
Thank God Ledgeからオフィズズへ 突入!下を見てはいけません! |
感想 長雨の影響で練習不足だったため予定より時間かかってしまいましたが何とか登れて肩の荷が下りた感じです。でかい壁はやはり色々勉強になりますね。 ルートの下部は日本の本チャンっぽかったですがSteep Wallから上部は巧みにフレークを繋げたヨセミテらしいすっきりとした壁で感激しました。しかしこんなでかい壁50年近く前に登ったなんてホント信じられないっすね。日本のクラシックルートもそうですが先人の方々の偉業にはただただ頭下がるばかりです。 1dayでこなすにはかなりにクラックテクニックとマルチの手際良さが要求されますがいずれ機会あれば挑戦してみたいです。 |