東海山岳会 国内山行


メンバー 大関、蔵元
日程 2004年1月10日~12日


笠ヶ岳の隣にある抜戸岳(2812m)から派生する抜戸南尾根(南稜)は全長4,4キロとこの周辺の尾根では一番長く、ナイフリッジ、小岩峰が点在し中間部に約100mの南壁を有する。
まさに雪山の総合力が試される一級のバリエーションルートである。

槍穂高に比べるとあまり馴染みがないが他人のトレースが期待出来ず気象の厳しい独立峰の笠東面ということで積雪量も多い。
数年前から一度行きたいと思っていたが今回は東海大山岳部OBでもある蔵元君がパートナーになってくれ彼の若さ溢れる体力に助けられ無事完登することが出来た。

1月10日
朝4時前オイラの下宿集合で出発。先月の大雪脱出を思い出すと気が楽である。
まだ暗い中41号を飛ばし明るくなる頃高山に入る。
雪は例年と比べると少なそうだが158号に入ってからは路面が凍結しているせいかノロノロ運転。
新穂高に着いたのは9時前。
空はどんより曇っていて今にも雪が降り出しそう。

9時半過ぎ穴毛槍を見ながら出発。
左股林道に入ってすぐに膝までのラッセルで息が上がる。
「今日中にP5まで着けるんか?」と不安がよぎりながらも第一堰堤の橋を渡り尾根を川沿いに進むが歩きにくく蔵元君途中で右足を川に落とす。
ラッセルはきついが雪が安定している(その分重くてかなわんが)のでP5までのルンゼが使えそうだ。尾根を少し上がると第二堰堤から上がっている林道に出た。
ここから少し林道を戻るとルンゼを発見。
雪がしまっており雪崩の心配もない。
一気にP5まで行けそうだ!と意気込んで登り始めるが2時間もしないうちにどんどんもぐってゆく。
しかも雪が舞い始めた。

ワカンをつけるのもめんどくさいのでそのまま登り詰めるが雪は深く腰近くまで潜る。
更に対岸に見えてた中崎山も見えなくなり雪が激しくなってきた。
交代しながらルンゼを詰めること更に2時間、ようやく尾根上にで出る。
どうやらここがP5らしいがまだ時間があるので頑張って穴毛槍まで行くことにする。
P5からは急登の斜面を進む。
雪が安定しておりこのやばそうな斜面も雪崩が起きそうにないのがありがたいがが腰までの雪で全然進まない。

1時間以上奮闘すると尾根がやせてきて短いナイフリッジ。
視界も効かないのでここでザイルを出す。
1Pで穴毛槍の頂上。
ここから左に下ったプラトーで幕営することにする。

土方作業をさっさと済ませ降りしきる雪の中テントに転がり込む。
蔵元君が火焚きと水作りをやってくれるので助かる。(正月死ぬほど水作りをしたので当然オイラはおっくう)
暖を取り飲み物を作るとつまみと酒をあおりながら飯準備。
自称ペミカンマスターのオイラは今回初のキムチ鍋ペミカンに挑戦してみたが水野菜でペミカンを作るのは初めてなので味の方がかなり不安であった。
しかし食ってみるとなかなかイケル!蔵元君も満足そう…
白菜でペミカンが成功するとは…ラードと水野菜も愛称がいいのか?
食事を済ませiモードで明日の天気をチェック!(便利な時代になったもんだ)
予報は雪後晴れ。
期待出来そうだ。


1月11日
夜中ひたすら降りしきる雪と結露した水が顔にかかり熟睡できなかったがテントを明けると槍穂高方面は青空。

笠方面はまだ暗い雲がかかっていたが回復しそうだ。
抜戸の南壁が威圧的に雲の中から姿を現す。

朝食を済ませ撤収作業。

雲の切れ目から見える南壁
夕べかなり降ったので更に深いラッセルになりそう。

穴毛槍からは右の斜面をトラバース。

腰まで潜る雪の中南壁を目指す

胸まで潜る雪と急な斜面でいつ雪崩れるかビビリながら進み40メートルでまず1P。
続いて蔵元君ナイフリッジ手前まで50メートルザイルを伸ばす。

ここから30メートル雪稜を進み急な雪壁を左からアタック。
短いがほぼ垂直で雪が硬いのでピッケルで叩き崩し、掘り出した萌木を頼りに乗り越える。
抜けるとP6の雪面。
槍穂高と超えてきた穴毛槍が良くみえるがだんだんガスが沸いてきたようだ。

ここからコンテでP7まで進むが相変わらずきついラッセルで2人ともしょっちゅう落とし穴にはまる。
昼前ようやくP7プラトーに到着。
だだっ広い。

ガスの中から見え隠れする南壁を見ながら更に進む。

小岩峰の手前P8で小休止すると続くナイフリッジをスタカットに切り替え2Pで南壁のコルへ。
(リッジの下りが悪く蔵元君が「50パーゼントの確立で落ちます!」と言っていたのが笑えた)

ここから急な斜面を2Pでルンゼの懸垂ポイント。
10メートルの懸垂でルンゼに入りここから3Pの登攀。

越えて来た穴毛槍を振り返る。背景は西穂高。


ルンゼ内はガスに包まれ雪が舞っていたが時折新雪の笠が岳が見え隠れする。ルンゼの登攀はただ詰めるだけかと思いきや雪壁、氷、岩がミックスしておりかなり悪い。
3Pとも4級ほどに感じた。

P7プラトーから南壁へのリッジをラッセルする
南壁の頭に出る頃には日も暮れ辺りは薄暗くなってきた。
適当は場所を整地しテントに転がり込む。

体が完全に冷え切ってしまったが火を起こし食事を取るとようやく落ち着いた。
日本酒と蔵元君持参の梅酒でくつろぎながら濡れた衣類を乾かす。

幸い明日まで天気は持ちそうだ。


1月12日
4時起床。
空は快晴で今日は穏やかそうだ。
ゆっくり身支度を整え昨日の分の燃料を使い切ると6時半出発。
南壁の頭を過ぎると目の前にある笠ヶ岳が赤くそ染まり始める。
しばらくは撮影タイムなので蔵元君には先にいってもらう。

撮影を済ませ慌てて追いかけるが途中目に留まる景色が多くて何回もカメラを出してしまう。

抜戸山頂へ続く登りでトップを交代するが雪が深くなかなか進まない。

朝日を浴びる笠ヶ岳

おまけに昨日、11時間ぶっ続けの登攀でしかも3日目となると流石に体を堪えてくる。

亀のような速度でラッセルし最後の登りを詰める。
ふと笠の方を見ると岐阜県警のヘリが飛び回っている。

抜戸頂上への雪面をゆく
訓練だろうがこちらには気づいているのだろうか?
多分こんな正月過ぎた時期にこんな山域に入っている我々を見て物好きだと思っているのだろう。

蔵元君が叫びながら頂上へ飛び出すと同時に上空をヘリが通過していった。
まるで映画のワンシーンを見ているようで何だかかっこいい!


10時半、抜戸山頂に立つ。
念願の尾根を完登出来た喜びより疲労で座り込む。
頂上から下降の東尾根は稜線伝いに雪庇が張り出しているので探すのがおっくうであったが少し北に歩いた所ですぐに見つかった。

留守宅に登頂のメールを送ると11時過ぎ下山開始。
自称下山家の蔵元君はシリセードを交えながら凄いスピードで下ってゆく。

1時間ほどで尾根の取り付き横のルンゼに到着。

一休みして小池新道の入り口まで降りるが途中蔵元君のアイゼンが壊れてしまう。
登攀中でなくてよかったが…

山頂にて。背景は笠ヶ岳


ここからひたすら林道のラッセルが続く。
当初ワサビ平で幕営する予定だったが思ったより早く降りてこれたのでこのまま頑張って新穂高まで下ることにした。
しかしヒヨっと体にこの林道ラッセルは堪える。
ワサビ平からは15分交代で進むがしんどいの何の。
右手には登ってきた穴毛槍が見えるが全然近づかない気がする。
二号堰堤が見えると後少しだと気力でラッセルを続ける。

午後4時前、ようやく新穂高に到着。
空はいつの間にか曇り始めていた。
装備を片付け車に乗り込む。
オイラは疲労が激しくて何をするにもしんどかったが帰り際温泉に浸かり久々野町の飯屋でケイチャン焼きを補給するとようやく落ち着いた。
このまま帰るのはしんどかったので店の駐車場で仮眠して戻ることにしたが午前1時ごろ起きると雨交じりの雪で辺りは真っ白!
急いで車を出し下宿に戻ったのは朝の4時半であった。


コースタイム
1日目 新穂高AM9:30~クサコバAM11:00~1750m地点PM12:50~
     P5PM15:00~穴毛槍PM4:30
2日目 穴毛槍AM6:30~P6AM10:00~P7PM12:30~南壁コルPM13:00
     ~ルンゼ取り付きPM14:30~南壁の頭17:00
3日目 南壁の頭AM6:30~抜戸山頂AM10:30~東尾根取り付きPM12:00
     ~小池新道PM12:40~ワサビ平PM13:40~新穂高PM16:00


感想
天候にも恵まれ久々に会心の山行でしたが終始ラッセル地獄で流石に体力的にはきつかったですね。
まあオイラももう若くないっつーことでこればかりは仕方ないが行く前にもう少しグリコーゲンローディングしとけば良かったかも…
ルートとして展望も含め素晴らしい内容でした。更に雪の多い時期末端から取り付き南壁も中央ルートに取れば穂高山域では最も手応えのある尾根になることは間違いないでしょう。
取り合えず念願のルートだっただけ久々に充実した山行で満足しました。


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