東海山岳会 国内山行

 

日程   2005年3月6日~7日
メンバー 大関、神林

北アルプス唐沢岳の北面に位置する幕岩は高瀬渓谷に通じる七倉ダムの南数キロの地点にある。岩はダムからも良く見えるが岩場としては実に地味な場所にあり一日中日が当たらないこと、北アルプスでもあまり知られていない唐沢岳の岩場ということが更にその雰囲気を助長している。

多分ダムが開発されなければ一生手付かずの岩場であったことだろう。
ただ岩場のスケールとしては国内屈指のスケールを誇る。

幅約500メートル、高度差は300メートル以上。威圧的にハングした上部壁、10メートル以上せり出したルーフの大洞穴ハングなどアルパインクライマーの技術と情熱を奮闘させてくれるには十分な魅力が備わっている。

しかも標高が低いことから冬は季節風の影響を直接受けることはないし七倉のダムまでは除雪がしてあるので余程ラッセルがひどくなければ半日かからず取り付きまで辿り着くことが出来る。

反面、巨大な岩には一面ベルグラや氷柱が纏わりつきそのスケールからも冬壁の登攀としてはかなりの技術を要する。

このような理由からも半ばイッちゃってるクライマー達にとっては自分達の技術をフルに試す岩場として冬季はそれなりに入山されている。

今回、本格的な冬壁は1年ぶりであったが、以前から一度冬季にチャレンジしてみたいと思っていたので後輩の神林君と入山することにした。


3月6日
4時半起床。夕べは少し雪がちらついたようだが空は快晴のようだ。
身支度を整え6時出発。

空気はキーンと冷えてまだ真冬を感じさせる。
七倉のゲートに着く頃、日が昇り始める。
ここからは長いトンネルの中。

ザン靴を響かせてさっさと歩く。7時過ぎにダムの直下に到着。
ありがたいことに先行パーティがいるらしくトレースが残っていた。
早速使わせてもらう。
おっかないアルミハシゴを登り金時の滝を越えると幕岩も近くなる。

急な斜面を登りきると大町の宿。
先行パーティが大凹角を登っているのが見える。
荷物を纏め一休みすると取り付きに向かう。

取り付きまではかなり急で雪崩ると下までもっていかれそう。

冬の幕岩全景。上部壁はハングしている為、
雪がついていない。
1Pの取り付きは半分埋まっていたので残地スリングでセルフを取る。
最初はオイラ

1P目
出だしから急なスラブで人工のようだが左のカンテに雪塊が纏わりついていたので強引に乗り込むがいきなり雪塊が崩壊し、フォール。

幸先悪いなー…と思いながらも気を取り直してスタート。
スラブを人工で抜け凹角を直上するが悪い。
アックスを半掛けして左のスラブへ移り更に右に移るがこれも悪い。
ベルグラに騙し騙しアイゼンをかけ乗り込む。
あとは草つきにアックスを叩きこんで終了点まで。
40メートル

雪と氷に覆われた下部スラブ
2P目
神チャン手際よくアブミで進むが右のボルトラダーへのトラバースが悪く苦戦。上部からのスノーシャワーが更に気を重くするが絶妙なバランスで突破。20メートル

3P目
ボサテラス辺りらしいが雪で埋まって良く分からない。
ランナーの取れない草つきをアックス便りに上がりスラブを左にトラバースするが薄氷の張ったスラブではホールドがなくお助けスリングにアックスを引っ掛け終了点まで。
25メートル

4P目
出来ればもう1P行きたかったが時間も押してきており、これ以上登るとFIXが足りなくなる恐れがある。
ここでFIXを張り取り付きまで戻る。
時間は5時過ぎ位であった。
宿の戻るとさっさとテントを張り、お茶と飯。
本日のトコロは時間もあるし、くつろげそうだ。

夕食を食べ終わり酒飲んでダベっている頃先行パーティが戻ってきた。
一人は女性だったがかなりの御経験者のよう。
俗にいうイッちゃってるクライマーさんのようだが6時頃完登し暗闇の中下降してきたそうだ。
オイラも年に一度は壁の中で夜になってしまうので今年位は避けたいところだ。
彼女から情報とボルトの叩き出しの礼を言う茶を飲んで就寝。

3月7日
4時起床。
ありがたいことに今日も快晴のようだ。朝食に大量の豚汁を流し込み身支度を整えると取り付きへ。

6時過ぎ登攀開始。
流石にユマールだと早い。
7時過ぎに4P目からの登攀開始。

4P目
出だしの凹角を詰めるが抜けが被っておりいやらしい。強引にアックスを叩き込みバンドに這い上がる。
ここからスラブだが雪で埋まっており快適に登れた。
40メートル

5P目
神チャンのクオークは流石に効きがよくバシバシ草つきに決まる。
中間バンドに上がると傾斜は落ちラッセルしながら適当な萌木まで
50メートルいっぱい。

2P目をユマーリングする神チャン

6P目
同じくバンドをラッセルしながら大凹角目指して進む。
50メートル一杯

7P目
そのまま右にトラバースし凹角へ入ってゆく。
若干先行パーティのトレースが残っていたがスノーシャワーが激しいせいか殆ど消えている。
核心のピッチへ上がるカンテが悪い。
一部被ったバンドが終了点
30メートル

7P目終了点から見上げる最終
ピッチの凹角
8P目
いよいよ核心部。夏の場合これが最終ピッチだ。
気合入れて前進。出だしのフェースからからグラグラ動くハーケンに体重を乗せることになり胃が痛い。

トラバースバンドへは半分浮いた岩にアックスをかけ、這い上がる。

ここから5メートルほど左へトラバースしチムニーへ入るが残地もホールドもなくためらう。
岩の間に詰まった雪をほじくり出し、そこにハンドジャムを決めると片方のアックスを岩にチョンかけして体を引き上げる。

アドレナリン全開!

ここからチムニーの側壁を人工で登り、小さなバンドへ出る。

まだ10メートルほどありそうだが残りのギアが少ない。
迷ったが幸い残ったカム類が使えそうなので、気合いれて強引にフリーで終了点まで。
ガバホールドが多くて助かった。
40メートル
冬季の場合、正式にはあと1P残っていたがほぼ右稜の頭も見え、最後はロープなしでもいけそうなバンド。
時間も押しているし実質的にはもう完登したようなものなので下降中にハマるケースも視野に入れてここから下降開始。

日が暮れる前にはダムに着きたい。
幸い下降は順調。

途中上部壁からどデカイ雪崩があり中間バンドの雪を押し流していた。
かなりビビる。

4時半過ぎ取り付きに戻る。
ロープをまとめ宿へ。

ギアを整理しテントをたたむと一服し、5時過ぎに大町の宿を後にした。

核心、凹角のピッチ。フェースを
人工でゆく
途中金時の滝の下降では懸垂した。
午後6時半、丁度真っ暗になる頃ダムに到着。
取り合えず安全圏。

アイゼンやハーネスを外し、荷を纏めるとしんみりとしたトンネルの中を屑温泉までトボトボ歩く。

午後8時、車まで戻り山行終了。
流石にこの時間だと冷えてくる。
荷を仕分けると途中、豊科のトンカツ屋で腹を満たし
一路高速へ。
名古屋に戻ったのは調度、日付が変わる頃であった。


感想
久々の冬壁でしたが十分実力を発揮できました。(というより十分満足できる量のアドレナリンが出せました)
やはり壁がでかく、どのピッチとも技術を要する面から総合的な冬期登攀の実力が試されると思います。
個人的にはちょっとローケーションがイマイチなのが難点ですが登る壁としてはお腹いっぱいです。

さて冬壁終わったし、次はキノコやね(去年もこんなコト言ってたな…オレ)