東海山岳会 国内山行


日程2005.3.19日~21日
メンバー 千田、大関、蔵元

鹿島槍の荒沢奥壁は北壁と共に豪快なスケールを誇る雪壁として多くのルートが開かれている。
魅力としては北壁に一歩譲るが雪壁中心の北壁に比べ奥壁はヤセた稜上に巨大なキノコを乗せ、更に急な傾斜がその難易度と不安定要素を物語る。

技術的にはかなりの雪の処理能力と冬壁の技術を要するが今回は東海最強メンバーの3人ということで挑むことになった。


3月19日
前日は寒気の流入でサンアルピナのスキー場も雪が降り続き大町も真っ白になっていたが朝起きると青空が見える。
しかし風は非常に強く雲の切れかかった稜線は凄い雪煙が舞っていた。

テントをたたみ8時前に出発。既に多くのパーティが東尾根や天狗尾根に向かっているらしく荒沢出合いまではトレースはバッチリ。例年より雪が多く出合い付近の支流も全て雪に埋まっていた。



第一クーロアールを先行するパーティ
荒沢出合につく頃には何パーティか先行しているのが見える。

尾根上に出てから各パーティを抜いてゆくが標高があがるにつれ風が強くなる。
途中、対風姿勢をとらなければ吹っ飛ばされそうな強風に何度か煽られる。

第一クーロアール付近で一番最初のパーティに追いつき、交代でラッセル。

クーロアール付近で大休止を取っていると雲が切れ始め稜線が見え始める。
久々のシャッターチャンスなので2人には先に行ってもらいしばし撮影タイム。
クーロアールを越えると目の前に荒沢が凄い迫力で姿を現す。

ここでもしばし夢中でシャッターを切っていたが風が強い為、フィルム交換時ホルダーに雪が舞い込んで大変だった。
すっかり遅れをとったので全力で第二クーロアールを詰め天狗の鼻に到着。
時間は午後2時を回った位であった。

風が強いので相談の結果尾根の北側に雪洞を掘って中にテントを張ることにした。
3人だとやっかいな雪洞堀りも手早く進むがさすがに中でテントを張るスペースを作るには時間がかかる。
1時間半ほどで作業終了。
風も大分治まってきたようで稜線上にもテントが増えてきた。
こちらもさっさと幕営すると雪を落としてテントの中に転がり込む。
気つけに千田さんが持って来てくれたウイスキーを口にいれ落ち着く。

夜になると星が綺麗で明日は期待できそうな予感。

快適な雪洞テント。作るのが大変だが…

3月20日
朝3時j起床。
さっさと朝食と身支度を済ませ外に出る。
風は穏やかで空はまだ満点の星。
ギアとハーネス、アイゼン、メット、アックスのフル装備を身につけ出陣。

北稜の取り付きは天狗の鼻の最低コルから右股のルンゼを下るが雪が安定していたのでその手前あたりから一気に下る。手前に派生する巨大な支尾根を回り込むと先行パーティの足跡がある。
先を見てみると北稜の左のルンゼを詰めてゆくのが見えた。

取り付き付近までトレースを使わせて貰い、北稜の末端を右に回り込む。
周りがうっすらと赤くなりやがて燃えるような朝焼けへと変わってゆく。
幻想的な時に流れにしばし息を呑む。

第一岩峰は左から撒けず直登
北稜の取り付きは末端から右に回り込んだ雪壁を詰めるがラッセルが深く交代で進む。
詰めるに従い傾斜がきつくなり稜線まで20メートルほどの所で木を掘り出しアンザイレンする。
左側にすぐ稜線が見えているがそこまでの雪壁が悪そうなので千田さん直登。

しかし例年より雪が多いせいか萌木が殆ど埋まっており時間がかかる。
最後のキノコ雪の辺りは垂直で苦戦。
かなり頑張るが…「ウワー」という声と共に落ちてきた。

手前の木で取ったランナーで止まるが又登り返すのも大変そうなのでそのまま振り子で左の稜線上に出る。
どうやらここが第一岩峰の基部らしいが雪が多いせいか半分以上埋まっている。
ルートは直登不可らしいので左から巻こうとするもこちらもベットリ雪が付着してランナーが取れそうにもない。

やむ終えず直登。
岩峰の上に出ている木にアブミをかけ強引に這い上がるが被っていおり岩の上は垂直の雪壁でゲキ悪!
ダブルアックスを抜け口に叩き込み、頭で雪を崩して何とか岩の上に立つも際どいバランスを強いられる。
この雪壁もグサ雪で全然立ち込めない為、雪を崩して中の萌木を掘り出して攀じ上がるが表面が硬い為気が遠くなるような作業となる。
途中からスコップを上げ萌木にセルフを取って掘り返すが一向に進まない。
雪壁の抜け口はキノコになっていたが、さすがに掘り崩すのもおっくうになり最後はバイルを突き刺し強引に腕力だけで這い上がる。
突き刺したバイルの雪が崩れれば終わりだったが何とか突破!

20メートルに2時間近くかかってしまった。
ここでピッチを切るも幅1メートルほどのゲキヤセ尾根でビレイ用の木もない為、アックスとスノーバーを雪に突き刺し支点を取る。

更に行く手を阻むかのように巨大なキノコが目の前に座っている。
千田さんがトライするも相変わらずのグザ雪で立ち込めない。
吹っ飛んだ場合、このヤセ尾根上のスノービレイでは支点が持たない可能性が大きい。

その場合ビレイしている蔵元君も巻き込まれるので反対側に飛び込む体制でビレイをするが、やはりリスクが大きくどうしても突っ込めない。

しばし相談した結果時間的に今日中に登り切るのは無理であることとこの先同じような難易度が続いた場合かなりヤバい状態になりうることが考えられたので敗退を決定。

30分以上かけてキノコの基部を掘り返し萌木を見つける。
安全策を取り、補助用にスノーバーを埋めると順番に取り付きまで懸垂。

何とか無事生きて帰れそうだ。

30分以上かけて萌木を掘り出す
午後になり気温が上がったせいか雪は安定してルンゼを登り返すことが出来そうだ。
帰り際これから北稜に取り付くという。男女のパーティに出会った。

3時前に天狗の鼻に戻る。
この頃から天気は一時的に下り坂。雪が舞い始める。
さっさとテントに戻ると濡れたものを乾かしヤケ酒。
まあ自分としては登攀はお腹一杯であったが…
夜から風雪が強くなる。

3月21日
朝ゆっくり目に起きるとテントが雪が押し潰されかかっていた。雪洞の入り口は完全に埋まっていたが強引に掘り出すと外は青空が見える。

撮影兼ねて入り口の雪かきに出るが稜線上は目も開けていられないほど凄い強風で他のパーティは撤収作業に苦戦していた。
撮影を終えテントに戻ると朝食を済ませ撤収。

風も次第に収まってきて鹿島から爺ケ岳へ稜線は新雪を浴びて美しい。
荒沢尾根のキノコ雪は例年になく巨大で雪の多さを物語る。

午前8時前、下山開始。
下るに連れ春の日差しが色濃くなる。
途中第二クーローアールで後続のパーティが谷河に滑落して一瞬、ヒヤっとしたが100メートルほどで止まり自力で上がってきた。

かなり気分が悪いものを見てしまったが気を取り直して下る。

昼過ぎに駐車場着。
装備を整理に大町の温泉に入り腹ごしらえ。
昼食を取り温泉の駐車場に戻ると冷尾根に入っていた井土さん達と出会い今回の山行の話題で盛り上がる。

名古屋に戻ったのは7時頃であった。


感想
予想以上に雪が多く雪質の悪さも相まって思った以上に手強い尾根でした。傾斜が強いので尾根というより半分壁でしたがその分技術力が試されますね。

今回は条件が悪かったですが冬季登攀としてはかなり魅力のあるルートなので又チャレンジしたいです。(雪が例年並の時に)


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