Rocky Mountain

Spearhead "Sykes Sickle" 5.9+  10pitchs


(パクリ写真)

 Spearheadという岩峰の存在感は、なんとも表現のしようがない。
 ロッキーマウンテン国立公園内でも最も美しい場所といわれるグレイシャーゴージという圏谷の最奥。周囲を4000m級の峰々に囲まれた巨大なカールに、どん詰まりのChiefs Head北壁から一本の支尾根が下りてきているのだが、その末端が大きく膨らんで、さながら角をかざしたカブトムシを思わせるような岩の塊を形成している。それ自体の標高が3833m。 その白く美しい東壁のど真ん中を、巧みに弱点をついて登っているのが Sykes Sickle である。
 このルートは1958年に初登され、1964年にロビンスによってフリー化されている。5.9+という微妙なグレーディングがされているが、私のような170cmそこそこの人間にはおそらくこのグレードでは登ることは出来ないと思う。ロビンスがどれぐらいの身長だったかはともかくとしても、あの当時のどた靴であれをフリーで登るというのは、やはり驚くべきことである。
 ちなみに、ロビンスは同じ夏にやはりコロラドのボルダーキャニオンで、Athlete's Featという 「5.10」の5ピッチのルートをフリー化しているが、このルートはその時点で世界で最も難しいマルチピッチルートであったと考えれられている。そして現在では5.11aにグレーディングされているのだ。恐るべしロビンス!


1ピッチ目

 さて、ロッキーマウンテンでのクライミングだが、夏の間はどんな日でも、昼を過ぎると雷を伴って短い嵐がくる可能性があるとされる。よって、昼過ぎにはクライミングを終えて、安全圏に下りている必要があるのだ。おのずと早出は必須となる。おまけにSpearheadまでのアプローチは優に3時間を要す。

 2:00 起床
 2:50 Trail Head出発
 超人気ルートだけに、ライバルの存在も気になるところだ。30分も歩いたところで前方にヘッドランプ発見。「コレハヤバイ」と思いきや、どうやら彼らは降りてきているいるようであった。「コンナ時間ニナゼ?」聞いてみると彼らは前日 Allowhead を登ったのだが、いろいろ手間取っているうちにすっかり暗くなってしまい、結局今までずっと行動してこの時間になってしまったとのこと。さらに彼らは時計を持ってなくて時間が全く分からない。会ったとたんに「今何時?」「えーと3時半だよ。」「オーマイガー!」だとさ。
 2時間ほど歩いて、ひと休み。まだ真っ暗やみ。今度は下からヘッドランプ。「どこ登るの?」「Sykes Sickle!」ついにライバル登場! ここから取り付まで抜きつ抜かつのデッドヒートを繰り広げることになる。しかし、やはり足の長さがかなり違うので、一時はあきらめかけていたのだが・・・・。
取り付きへの最後の斜面が100mほどの堅い雪の斜面になっており、敵はこれを登るのに大変苦労していて、半分までいったのに振り出しまで滑落したりしている。こっちには、日本から持参の軽アイゼンと「竹やり」があるので、こんなところは簡単だ!

4ピッチ目

 というわけで、日本チームは今回もアプローチのレースを制したのである。アプローチを終えて気づいたのだが、周りの風景の美しいことといったら・・・。

  6:20 クライミング開始
 11:30 終了

 クライミングは、前半は傾斜のゆるい壁を顕著なクラックにそって登って行くが、上に行くにしたがって傾斜を増し、最後には巨大なハングを「まさか」というような巧みなライン取りで抜けて、ふたたび緩傾斜帯にでる。岩はおおむね堅く、極めて快適である。

5ピッチ目

 しかし3800mという標高は、おそらく私にとっては初体験で結構苦しい。息を荒くしての登攀であった。
 実質の終了点からは、歩いてピークに登ることができる。ピークは畳半畳ほど広さの平らな岩となっていて、実にすばらしい場所であった。ここでいつまでもこの景色を眺めていたいと思ったが、天候の急変も心配なので早々に下降を開始する。
 
 下降は、壁の裏側を何とか歩いて下っていける。このあたりまでは体調のよかったHiromiも、下降開始とともに高度の影響と疲れが出てきて、かなり辛そうである。取り付まで戻ると、へなへなと倒れこんでしまった。

 12:30 取り付きに戻る
 15:50 Trail Head

 何とかなだめて起き上がらせ、Trail headへの道を下り始める。 


終了点にて 後ろはMcHenrys Peak東壁

美しい風景の中、泣きそうな顔で歩いているHiromiを見て、すれちがうハイカーたちも怪訝な顔をしている。 それに対して、なぜか言い訳をして回っている私・・・。
(朝2時におきて、アプローチを駆け上がって、Spearheadを登って・・・・と説明すると、"That's Why"ってな感じで納得してくれました。)

 何度か小休止しながら、へろへろになってパーキングのあるTrail Headにつく。 ぴったり14時間、ほとんど休みなしの行動であった。

下降路 後ろはChiefs Head 北西壁
 キャンプに戻って、ひと寝入りした後、Estes Parkの町に出てシャワーをあび、えせイタリア料理屋で食事をして、またキャンプに戻る。明日は当然レスト。