Sentinel Rock "Steck-Salathe"  5.10b 16pitchs

 
「たかだか 5.10b」 と侮ることなかれ。 こいつは本当に総合力が試される一本だ。 
 1950年に初登されて以来、恐ろしいワイド登りのテストピースとしてヴァレーに悪名を馳せ続けるこのルートは、16ピッチと長い上に、続けざまに登場しては体力絞りとるワイドクラック群、長く悪い下降とアプローチによって、いまだに多くのパーティーにビバークを強いている「大変なルート」なのである。半端はクライマーは簡単にはじき返されてしまうのだ。
 で、私のような半端なクライマーが、このような大変なルートを手中にするチャンスはそうは訪れるものではない。「オフィズス・ロープガン」こと大平さんと組める今回こそが、その時だ。 私は迷うことなく、今回のヒットリストに、「北米50クラシック」の1本、Steck-Salatheを付け加えた。

  こいったルートであるから、どのような装備を持って登攀に臨むかは、悩ましいところでもある。ビバークを想定して装備を増やせば、確実にスピードはダウンする。逆に装備を減らして、もしビバークになってしまうと、夜はかなり冷え込むので悲惨なことになるだろう。
  
  結果的に私達が選んだのは、「食料・水・装備ともにビバークは想定しない。バックロープは持たない。ギアはキャメ#4まで。」というもの。すなわち、「装備はぎりぎりまで少なくしてスピードを上げる。何がなんでも明るい内に頂上に抜ける。敗退はしない。そして万一、途中で下降が必要になったら、ロープ一本でギアを残置しながら下りよう。」という考え方である。


         6ピッチ目ぐらい

 センチネルは、相当にデカイ壁であるが、実際には半分ぐらいの高さまではアプローチである。キャンプ4のちょうど対岸のあたりから、グレーシャーポイントに上っていくハイキング道の途中から、ガレ場を急登し、上の写真に見える右上ランぺの基部まで行く。右上ランぺは、普通は落ちるようなところではないが、万一落ちたら助からないような感じで、かなり恐い。
 ルートは、Flying Buttress という顕著なピラーの右側を登り、その頂上から左に1ピッチの懸垂の後、上部Great chimmnyへと続くクラックシステムをたどって、最後はホントの頂上にポンと出るというものだ。

 1、4、5、9、11、12、13 の計7ピッチがワイドクラックとなっており、そこが自ずと核心になる。

9/15 5:30 キャンプ4出発
     5:45 4-mile trail head
     6:45 取り付き

  心配していた先行パーティーがいたのだが、駐車場であっさり抜き去った。彼らは私が1P目のリードを開始するころに取り付きに到着。1番で取り付けなかったことが不服そうであったが、その後あっという間に引き離して、彼らの姿を見ることは無かった。

見下ろすとセンチネルの影が・・・

ナローズの下のピッチで、
ワイドテクを駆使する大平
 クライミングは順調に進んでいたが、私は5ピッチ目のスクウィズチムニーをリードしたあたりから疲労が出始めて、10ピッチ目のランナウトするスラブを登り終わった頃には、結構できあがっていた。よって、その上の2ピッチのワイドは、大平さんにリードしてもらうことになった。 後で二人で話したことだが、今回のようにフォローが荷物を全て持つスタイルにおいては、ワイドのピッチではフォローの方が確実に体力的にはつらい。 この2ピッチのワイドセクションは私にとってはしんどかった。特に、12ピッチ目のNarrowsは、ヘルメットさえ受けつけない狭さだ。大平さんは4つぐらいギアを持つだけで出ていっちゃったので、残りの全てのギアと、ザックとヘルメットを鈴なり状態で股の下にぶら下げての登攀となる。重いは、引っ掛かるはで、泣きたくなった。
 Narrowsを抜ければ、もう先は見えてくる。次ぎのピッチもひたすらチムニーだが、広いチムニー主体で、落ちそうなのは恐いがムーブはやさしい。
おまけにリードなので、体にやさしい。60mいっぱいまで伸ばす。もう頂上の巨木が目の前だ。

  15:35 終了
  17:50 4-mile trail head(駐車場)
 
 登りはじめてから、一度も時計を見ていなっかたが、こんなにかかっていたとは知らなかった。かなりの「落ち武者」状態になっていたが、ビレイ点から、2、3mの岩を攀じ登って、絶頂に立つ。とりあえず、大声で何か叫んでみたりしたような気がする。

 下降は、頂上からやや左よりに、踏み跡をたどってうねうねと下り、壁の後ろ側のガリーを降りる。途中、1ポイント皆さんが懸垂している場所があるが、何とかクライムダウンできた。(キャメ#1でA0)  スラブを下り、沢を2回程渡り返して、アプローチのランぺの取り付きに戻れる。この下降は初めての人なら、暗くては無理と思う。
 Car to Car でちょうど12時間であった。


ルートの終了点。
すぐ左の岩がリアル頂上。

 この日はロッジのカフェテリアで飯を食うことになっていたが、私は疲れていてすぐには食えそうもないので、シャワーを浴びてひとごこちついてから行きたいと主張。 一方の大平さんは、腹が減って倒れそうなので、すぐ行きたいと主張。 結局折り合いがつかず、別々に出かけた。


ナローズの登攀


NARROWS(ナローズ)とは?

 このルートを象徴するピッチ「Narrows」をどのように説明したら分かってもらえるだろうか?
 ちょうど足を伸ばして登れるぐらいの広いチムニーの片側の壁が、突然水平に張り出して、チムニーはフィストサイズにまで閉じてしまう。 しかし、その閉じたところの下をチムニー登りでトラバースして行くと、一箇所だけ人間の頭が通るぐらいにぽっかり広がった穴がある。そこに頭を突っ込み、上半身をいれて行くと、結果的に、左の写真のような状態になり、たいていの人はそこでジタバタし始める。 ここからどのように上に登っていくかは、想像にお任せしたいが、とにかくなんとか狭いところに入り込んで、さらに20mぐらい、幅は狭いけど奥行きは広い洞窟みたいなところをはいあがるのがこのピッチである。
 スクウィズチムニーだが、特大のカムが無くてもプロテクションはなんとか取れる。
 ナローズの下のビレー点は、チムニーの中のちょっとした快適なテラスになっている。

 一番右の写真の、対岸の岩の下に見える森は、ちょうどキャンプ4あたりになる。ということは、キャンプ4からも、ナローズの奥が見えるということなのだろうか?
 

ナローズの奥を見る。

ナローズの中から、
外を見る。