東海山岳会 海外山行

2015/7/30

「6/9-6/24 Yosemite国立公園クライミングツアー」  山行記録 海外
個人的な諸事情と家族の理解にも恵まれて、友人のBさんとYosemite国立公園に行ってきました。ビッグウォールは対象外として、日帰りで登っている小川山や瑞牆に行くのと同じように気軽な準備で臨みました。私は2001年に行って以来14年ぶり2回目、Bさんにとっては初めてのYosemiteです。

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梅雨の日本を脱出して快適に過ごすつもりでしたが、いざ行ってみると6月のYosemite Valleyは思っていた以上に厳しい暑さでベストシーズンではなかったです。それでも、久々の海外を大いに満喫してきました。

以下、遅ればせながらの報告です。

■日程
6/8 山梨発
6/9 羽田発 →北米6/8 Seattle泊
6/9 Seattle発 →San Francisco →Yosemite国立公園
6/10~23 あちこち登って、時々レストとキャンプサイト移動
     (Yosemite Valley & Tuolumne Meadows)
6/24 Yosemite国立公園 →San Francisco →Los Angeles発
6/25 羽田着(羽田泊)
6/26 山梨戻り

■取りついたルート
Midterm (Arch Rock) 5.10a
New Dimensions (Arch Rock) 5.11a(全4p)
Outer Limites (Cookie) 5.10c(1pのみ)
Crack A-Go-Go (Cookie) 5.11c
Catchy (Cookie) 5.10d
The Enema (Cookie) 5.11b(全2p)
Conductor Crack (Generater Station) 5.10d
Direct Route (Reed's Pinnacle) 5.10a(全3p)
Bongs Away, Left (Reed's Pinnacle) 5.8
Lunatic Fringe (Reed's Pinnacle) 5.10c
Sacherer Cracker (El Cap Base) 5.10a
Moby Dick, Center (El Cap Base) 5.10a
Serenity Crack & Sons of Yesterday (Royal Arches) 5.10d(全9p)

Regular Route (Fairview Dome / Tuolumne) 5.9(全12p)
West Crack (Daff Dome / Tuolumne) 5.9(全5p)


以下は長文。時間のあるときに覗いてください。


6/8~9(日本)
夕方の高速バスに乗って新宿経由で羽田まで移動。6/9 0:05発のフライトでSeattleへ。
空港から宿までの移動は直通電話で宿に連絡して送迎バスに来てもらう仕組み。これを理解するまでに時間がかかる。5ドルの荷物カート代をケチったはいいものの、重荷でバス停まで移動するのも大変で、宿に着いたときはもうぐったりだった。

ボルダリングマットでザックをサンドイッチにして、大荷物を抱えての移動
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6/8~9(北米)
Seattleで宿泊。6/9早朝にSan Franciscoへのフライト。機内からMt.Rainier(4392m)を遠望できる。
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San Franciscoからはレンタカーで移動。街中を運転するのが嫌だったのでSan Francisisco市内のREIには行かず、DublinのREIとSafewayに立ち寄って買出しを済ませる。夕方5時前にYosemite国立公園まで到着。


REIでは色々と買う気満々だったものの、San Franciscoの店舗とは異なりクライミングギア・シューズがほとんどおいてなかったので、EPIのガス缶とその他小物を少々買う程度となる。
(為替 125円/1ドルだったので、価格的な魅力も感じない。)

Safewayでは、無料のカードを作って食料品を買出しした。これを持っておくと、ワインも安く、クリフバーもREIで買うより安くて、かなりお得でした。
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着いて早々の翌朝からCamp4でテントサイト確保の順番待ちで半日をつぶすのは嫌だったので、今回は事前予約が可能なCrane Flatでキャンプする日程にしました。

Crane Flatキャンプ場の様子
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小さいながらも小売店とガソリンスタンドもあって、Yosemite Valleyからもそれほど遠くないキャンプ場です。標高は約1900m。Yosemite Valley(標高 約1200m)と比べて涼しいところでした。

余談ながら、人が少ないせいか、この近辺では巨大な砂糖松の松ぼっくりがたくさん落ちていました。

あまりの大きさにびっくり
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テントを張り終えた直後に雨が降ってきたので炊事をする気にならず、まずはYosemite Valleyまで下りてEl Capの見学に行くことにしました。

Bさん、El Capと感動の初対面
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Midnight Lightningとの再会
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ビレッジストアにも寄って、SuperTopoを購入
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初登時の歴史に関しての記述等もあり、いつまで読んでいても飽きがこない。さっそく読みふけってしまいついつい夜更かしをしてしまう。日当たりに関する情報が載っているのも貴重で、どこへ登りに行くのか日陰を求めてエリア検討するのにとても役立った。



6/10
長旅から解放されて、ようやく初日を迎える。Go climb a rock! 
この日はCookieへ。まずはお気軽にショートルートで遊ぶことにした。

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Outer Limites(5.10c) せんだ:OS、Bさん:RP
Crack A-Go-Go(5.11c) せんだ:途中敗退
Catchy(5.10d) せんだ:RP、Bさん:テンション

Outer Limitesを登るBさん
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私はCrack A-Go-Goに取りついたものの、途中で決めたナッツの位置替えに手こずってテンション。結局、回収で大はまりして体力を消耗して途中敗退になってしまった。

反省としては、軽量化を狙ってダイソーの極小ハンマーを新規購入して持参したものの私には軽すぎだった。動いているナッツなのに、打撃力不足でなかなか回収できないという腹立たしい状況に陥ってしまう。しかも、変な体勢で長時間ぶら下がっていたため、その後の数日間は股関節もおかしくなってしまった。

今回のツアー中、CookieではNabisco Wallの5.11台のルートも触りたいと思っていたものの、この様子ではちょっと厳しそう。あまり背伸びせずに5.10台のルートを優先してじっくり取り組んでいくことにする。



6/11
Bさんにとっては初めてのYosemiteなので、やっぱりEl Capの壁に触れておかねば、と下部壁へ向かう。

Sacherer Cracker(5.10a) せんだ:RP、Bさん:OS
Moby Dick, Center(5.10a) Bさん:テンション

NoseとSalatheは大盛況のようで、下からでも多くのパーティを見つけられた。ちょうどフィックスを降りてきたところだったり、これからフィックスを上がっていくパーティもいたり。下部壁だけを登りに来ている人は他に誰もいなかった。ビッグウォールが流行っているのか、両ルートだけが突出した人気なのか?

Noseのラインを見上げる
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肉眼だと豆粒のようにしか見えません
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Salatheのラインを見上げる
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(写真の下部、三角形の右側の顕著なクラックがSacherer Cracker。その右側のフィックスはSalatheのクライマーのもの。)

ここにも当然クライマーはいます
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Sacherer Crackerは、今回ツアーで私の主目的の1本でした。全長は約45m。下降のためにバックロープが必要です。

15年前に初めてYosemiteにきた時、このルートに取りついたものの宿題のままになっていました。当時、40mまでテンションをかけずに登って、残り5mのオフィズス(5.9)でテンション。結局、終了点までたどり着けず、チョックストーンに大量に巻かれていた残置スリングで懸垂下降しました。

大量のスリングからして、自分と同じ思いをしている人はそれなりにいるんだろうなと思いながらの敗退で、ワイドクラック技術の必要性を痛感させられた苦くも楽しい思い出です。


今回の再トライは、大事な忘れ物を探しに行く気分でしたが、無事に1回目のトライで登ることができました。15年越し2回目トライでのレッドポイントです。オフィズスのところではあまり余裕がなく、キャメロット6番なしで突っ込むことはとてもできそうにありませんでした。開拓当時、大きいカムなしで突っ込んでいたのはやはり驚きです。
なお、大量にあった残置スリングはなくなっていました。敗退する人は減ったのだろうか??


Bさんも無事にオンサイトに成功。しかし、続いてトライしたMoby Dickでは、カムの球切れのために無念のテンション。長いクラックに打ちのめされたようです。

Moby Dickを登るBさん
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その後は夕立が降ったため早めの撤収。Salatheの1ピッチ目にも取りついてみたかったが次回のお楽しみに取っておくことにして、まだ時間があったので、Curry Villegeのクライミングショップに寄ってみる。しかしREIで感じたのと同じく、為替と税金を勘案すると魅力的なアイテムは少なかった。結局、今回の旅では本を何冊か購入しただけでギアやシューズ類は最後まで買いませんでした。


Trad Climber's Bible
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ぱらぱらっとしか読めていないが、かなりマニアックで面白い内容。和訳本が出版されたらどのくらい売れるだろうか?



6/12
引っ越し、ボルダリング、レスト

Crane Flatを出て、ようやく定番のCamp4へ移動する。この日から天候が安定して一気に暑くなった。

キャンプサイトは事前予約不可のため朝の6時過ぎから並ぶ。
一番先頭の人たちは何時に来たのだろう?
画像が削除されました


受付を済ませてテントを張って、一息ついたのは12時ごろ。完全に半日仕事になってしまった。その時点でも最後尾の人はまだ手続きできていなかったもよう。午後は少しだけボルダリングもしたが、暑さは如何ともしがたく他に遊んでいる人も少なかった。レスト日なので私はだらだらと過ごす。

Bさんは夕方涼しくなってからもボルダリングへ。End of day(V5の課題)に狙いを定めたとのこと。

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V1の課題を登るBさん


木陰で休みながら昨日購入したTrad Climber's Bibleを読んでいると、Reed's Pinnacleエリアに関する記事が面白かったので明日はそこへ行ってみることにした。私も初めて行くエリアでとても楽しみだ。



6/13
後半に向けてマルチピッチの準備もしたかったので、手始めに数ピッチのルートから登って様子をみることにした。

Direct Route(5.10a)(全3p)
 せんだ:OS(1,3p)、
 Bさん:OS(2p)/トップロープ(3p)
Bongs Away, Left(5.8) Bさん:OS、せんだ:トップロープ


Direct Routeのチョークで真っ白になった2ピッチ目とその上の3ピッチ目
(3ピッチ目を登ったところが、Reed's Pinnacle)
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長い2ピッチ目を登るBさん
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3ピッチ目を登り終えた私
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Direct Routeの2ピッチ目(5.9)まではこのエリアで一番の人気ルートらしいのですが、3ピッチ目に取りつく人はいささか少ないもよう。3ピッチ目はフレアーしたチムニーで、グレードは5.10a。かなり奮闘的で手ごわそうです。

このルートの開拓経緯はトポに詳しく書かれており興味深い。ピッチごとに初登者、メンバーの組合せが異なっており、エリア名ともなっているWally Reed、Sacherer CrackerルートのFrank Sacherer、といった顔ぶれが並んでいます。


Bさんは気合の入った登りで長い長い2ピッチ目を無事にオンサイト。Yosemiteの長いルートにも慣れてきたようす。

3ピッチ目は私の番。慎重にトライ開始する。出だしは10mぐらいプロテクションを取れず、残置ハーケンの付近にプロテクションを取って一息ついてから核心に突入。大きめのカムの安心感にも助けられて、どうにかオンサイトすることができました。


Sacherer Crackerを登った時にも感じたが、開拓当時はおそらくナッツも駆使して数少ないポイントにハーケンを打ちながら登って、核心部分はノープロテクションで突撃していたのかと想うと、その技術にはただただ敬服するよりほかないです。


Bongs Awayを登るBさん
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これも見栄えのするルートで、実際登ってみても、5.8ほど簡単とは思えない。

この日は、Direct Routeと合わせて、計4ピッチ分のマルチピッチの練習をすることができた。午後は日が当たって暑くなってきたので、人気のLunatic Fringe(5.10c)には取りつかずに早上がりとした。夕方は日陰になるらしいCamp4 Wallエリアへ行くつもりだったが、夕立が降ってきたので取りやめる。

テーピングも巻いていて時間もあったので、キャンプ場からすぐ近くの超有名なクラックのボルダリング課題Bachar Cracker(V4)を触るも全く歯が立たなかった。

Bachar Crackerを登るBさん
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6/14
日本での練習と昨日の経験を踏まえて、それなりに自信を持って長めのマルチピッチへ行くことにした。

Serenity Crack & Sons of Yesterday(5.10d)(全9p)
 せんだ:奇数、Bさん:偶数ピッチをリード
 核心の5.10d(3ピッチ目)は無念のテンション。

登攀開始7:45 →登攀終了(*8ピッチ目)13:15 →取付き戻り15:00

14年前の2回目のYosemiteで、7010さんと一緒に登ったルート。当時、私は偶数ピッチを登ったので、今度は奇数ピッチを登ってみたかった。核心の3ピッチ目(5.10d)はフォローで登って、落ちはしなかったものの全く余裕がなかったことを覚えている。

今回、核心をリードしてノーテンションで登りたかったが、傾斜が増してくるフィンガークラックで一回ためらってしまうと立て直す余裕がなく、結局はテンションをかけてしまった。当時と比べて、たいして上達していないようでがっくり。フィンガークラックの指の痛みに対して耐性が足りないようだ。

それはそれとして、このルートは何回登っても素晴らしい内容だと改めて感じた。
人気ルートですがどうにか最初に取りつくことができて、前半のSerenity Crackでは強い日射にもやられず快適に登ることができた。しかし、後半と同ルート下降は暑かった。。。


1ピッチ目のBさん
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2ピッチ目のBさん
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3ピッチ目(核心)のBさん
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7ピッチ目のBさん
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8ピッチ目のBさん
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終了点のテラスにて記念撮影
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下からは見えなかったYosemite Fallもここまで上がるとよく見えます
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今回の登攀時間はトポの参考情報と比べて遅いわけではなく、実力的に無理のないグレードのルートに取りつく場合、パーティとしての力量はまずまずの水準との感触を得られた。しかし暑さには参ってしまう。
今後、El CapのEast Buttressにも取り付くつもりだったが、長時間、直射日光にさらされて焼け焦げているような姿を想像すると登る気が失せてきてしてしまう。



6/15
前日の疲れが残っていたが頑張って早起きして、早朝は Reed's Pinnacleで登ることにする。Bさん的にはレストでもよかったらしく、それはなんとなく察してもいたが、登りに行きたかったのでちょっとだけ鈍感なふりをした。

Lunatic Fringe(5.10c) せんだ:OS、Bさん:テンション

長い長いルート。Bさんは、初日に取り付いたCatchyと同様に、シンハンドの箇所で手こずっていた。前日までの疲れの影響も大きかったか。今回ツアーの後半では、課題克服に向けてどちらかのルートのレッドポイントを目標とすることになった。

Lunatic Fringeを登るBさん
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その後はBさんの希望でAbove The CookieエリアのSeparate Reality(5.12a)の見学に向かった。しかし、懸垂下降のアプローチに確信が持てなかったためすぐ近くまで行くのは断念。懸垂下降ではなく歩いても行けると聞いていたがそれも大変そう。また、取り付くためには下部でTales of Power(5.12b)も登らねばならず、仕切り直しとの結論に至る。


おそらく、Separate Realityのルーフクラックだと思うが、、、、
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ついでに同エリア内の別の岩場で、120号線のトンネルに掘られた怪しげな側道をくぐって壁に出てから懸垂下降でアプローチ、という秘境のような岩場も見学してきた。なんだか、「行ってはダメ」と言われているところに敢えて行っているようで楽しい。

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眼下に見える岩の塊がCookie

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まだまだ時間があったので、有名なワイドクラックの課題Genarater Crack(5.10c)の見学に向かう。このルートも昔トップロープで触ったが登れなかった宿題の課題。しかし、日が当たっていて暑そうだったこと、溜まった疲れなどを考慮して今回は宿題のまましまっておくことにした。

トポを見ると、道路の反対側にフィンガークラックの5.10dのルートがあることに気付く。日も当たっておらず比較的涼しそう。日本的な短いルートで気軽に取り付けることもあり、今の状況にはぴったりだったので、このルートで苦手のフィンガージャムの練習に取り組むことにした。

Conductor Crack(5.10d) せんだ:RP、Bさん:テンション

出だしのムーブが難解で解決に一苦労する。ようやくフィンガージャムの痛みにも慣れてきた。しかし、ルートの短さに油断してテーピングを外して登ったため無駄に手傷を増やしてしまい、後半に向けてダメージとなってしまう。

Conductor Crackを登るBさん
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背後にはRostrumの北面がよく見えた。ここもいつかは行ってみたいが、、
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6/16
レスト

疲れ切っておりボルダリングも封印。体を休めることに専念する。夕方はYosemite Fallの観光へ。
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この日、キャンプ場の注意書きを改めて眺めていると重大なことに気付く。ハヤブサの営巣でArch Rockエリアは登攀禁止にされているが、よくよく読んでみると上部壁のみが登攀禁止となっており、登りたかった下部壁の登攀はお咎めなしだった。

これで明日の行き先はArch Rockに即決とした。



6/17
今までで一番早く、5時起きで出発したが、標高が低いためか一段と暑い。Arch RockはCookieと双璧の人気エリアのはずだが、他にクライマーがいなかったのも当然か。

Midterm(5.10a) Bさん:OS
New Dimensions(5.11a)(全4p) 
 せんだ:全ピッチリード
     1,2ピッチ目:OS
     3~4ピッチ目(リンク):4ピッチ目の箇所でテンション
     4ピッチ目のみ再トライ:力を出し切っており、テンションの山

Midterm全景
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看板のクラシックルートMidterm。私は14年前に登っていたので、まずはBさんにオンサイトトライしてもらう。このルートは不動沢のかぜひきルートを長くしたような感じで、フィンガーから始まって最後は延々と続くチムニーを登っていく、総合的な技術が必要かつ奮闘的なルートだ。

トポの記述が面白い。
「A full body workout」

まさしくそのとおりで、14年前に登った時はこのルート1本でおなか一杯になったことを懐かしく思う。今回、Bさんは渾身のクライミングでオンサイトに成功した。

Midtermを登るBさん
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最後はツルツルのチムニーで奮闘する
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そしていよいよ、今回のツアーで是非ともトライしてみたかった New Dimensionsへ。相談したところ、Bさんは「full body workout」のためフォローに徹することになった。Midterm恐るべし。

幸い、ルートそのものは岩陰となって日が当たらず、適度に上昇気流が吹きぬけていて、コンディションは良好だった。

杉野さんのホームページでこのルートは「クレイジージャムが4ピッチ続く感じでワイド好きはやらねばなるまい」とコメントされている。

またトポの記述で知ったのだが、Yosemite Valleyで初めての5.11とグレーディングされたルートであり、なおかつJohn Bacharによってフリーソロで登られた初めての5.11のルートでもある。
「the route remains a testpiece today」と書かれており、今の自分の実力でどこまで奮闘できるか?とても楽しみだ。


(本気トライでカメラも取り付きにデポしたため、登攀中の写真は無し)


1ピッチ目(5.10b): 
出だしのフレアーしたハンドの箇所から緊張が続く。後半5.10aのフィンガーセクションではあやうく落ちそうになるが無事にオンサイト。ビレイは木の生えている小テラスでまずまず快適。後で気がついたが、横から回り込んで直接ここに歩いてくることも可能。

2ピッチ目(5.10a):
中盤以降の5.9チムニーから5.9オフィズスにかけて、あまりプロテクションが取れず緊張する。無事にオンサイト。ハンギングビレイで高度感抜群。

3ピッチ目(5.10a):
トポの記述「exposed flare」とあるとおり、体をクラックの中にねじ込むまでがとても怖い。落ちてしまうとハンギングビレイのBさんに激突しそう。気合の雄叫びを出さずにはいられなかったが無事に通過。ピッチそのものは大変短い。

4ピッチ目(5.11a):
3ピッチ目の終了点は小レッジなのだが、そこが終了点とは気付かずに4ピッチ目に入ってしまう。途中で間違いに気付いたもののもはや時遅く、突撃あるのみだった。フレアーしたチムニーから5.10b~cのシンハンド、そして最後の核心は5.11aのフィンガークラックへと続く。

フィンガークラックに入っていく直前で、2ピッチ目のビレイ点に残してきたカムの分だけ球切れしてしまい、気持ちも負けてしまいテンションをかけてしまう。その後、最終核心のフィンガーセクションでも数回テンションをかけてしまったが、ムーブはどうにか解決できた。

本来は下から登ってきて、その負荷を前提に登ったうえでの5.11aだということは分かっているものの、それでもなお、Yosemiteで5.11台を1本ぐらいはレッドポイントしておきたい気持ちが強かったので、Bさんにお願いして4ピッチ目だけをもう一度トライさせてもらう。

結果は、、、、残念ながら撃沈。2回目はムーブすらできずにカムに頼り切って終了点まで抜ける。水切れ、食糧切れで体力は回復しておらず、それに加えて、Conductor Crackで痛めていた指の傷が一回目のトライでさらに悪化してしまった。指皮も薄くなっている。もはや、体も指もクラックの中に入って私の体重を支えることを拒否しているようだった。

今日の時点で持ち出せるものはすべて出し尽くして、ワイドに関してはそれなりに自信を深めて、フィンガーは課題を強く認識できた。全て納得して下降する。気が付くと、愛用のクライミングパンツもズタボロになっていた。



後日、この記録を書いているときに検索してみたら、このルートに関してJohn Longのコメントを見つけた。

「Must have done this climb 50 times at least, probably twenty times with Bachar, mainly as a training route - up and down the last pitch endlessly. 」

このルートで50回も登って練習することは私にはできないが、自分なりに国内のルートでもっと頑張ってみよう。



6/18
Camp4での滞在は今日までで明日には出ていかねばならない(この時期は最長7泊まで)。終盤戦をどこでどう過ごすか決断の時がきた。

計画段階での候補は、NeedlesかTuolumneか、もしくはBishopへの転戦。他のキャンプサイトからValleyへ通い続ける手もあり、複数案を考えていた。最終的に、キャンプサイトの込み具合も勘案したうえで、涼しいと思われるTuolumneへ移動することにする。

さて本日をどう過ごすか。
私は、5.11台を1本は登っておきたいがフィンガークラックはしばらく触れない。ワイドの5.11にトライすることはありえない。Bさんは、シンハンドを練習したい。
トポとにらめっこして、日当たりも考慮して、条件がそろうCookieを選択した。


Catchy 5.10d Bさん:RP
The Enema 5.11b(全2p)
 せんだ:テンション
 Bさん:フォロー(1p)トップロープ(2p)


昨日までの疲れが溜まっていたので遅めの出発。Bさんのトライから開始する。既に日が当たって岩のコンディションはいまいちだったが、安定した登りで見事にレッドポイントに成功した。

Catchyを本気トライするBさん
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充実した笑顔。レッドポイントおめでとう。
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さて私の番。Cookieの岩場は日当たりがよいが、狙いを定めたEnemaは東側で岩陰になっていて午後は涼しそうと読んだ通り、岩のコンディションは良好。フィンガークラックの要素も少ないはずで、今の指でもどうにかなるだろうか。


1ピッチ目(5.7)のワイドセクションをフォローするBさん
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クラックからは涼しい空気が吹き出していて快適。このピッチだけでも面白い。
しかし、ワイドクラックはもうおなか一杯になってきた気がする。


2ピッチ目(ハングした壁の5.10cハンド~5.11bシンハンドほか)
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5.10cハンドの部分を登る私

ここはノーテンションでこなせたが後半のシンハンドの部分でテンション、テンション、テンテンテン・・となってしまう。どうにかムーブは解決したものの、2回目のトライではそのムーブをすることができずにはまってしまう。課題持ち越しとなってしまい、がっかりしてキャンプサイトに戻った。



6/19
Camp4を出て、Tuolumne Meadowsへ移動。

Valleyの岩と比べると切り立ってはいないが、数多くのドーム状の岩峰が見える。ところどころ、雪も溶けずに残っていていかにも涼しそうだ。
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Tenaya Lakeの湖畔にて
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ここのキャンプサイトの標高は約2600mで、日中の陽射しは強いがそれでも快適。
Valleyではすべてが沸騰しているような感じだったが、ここならば快適に登れそうだ。


テントを張って一息ついてから、車で約2時間のドライブでBishopの町まで買い物にいくことにした。道中はアメリカ大陸の広大さを感じられる。
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Bishopでは、Wilson's Eastside Sportsというクライミングショップへ。今回のツアーで行ったお店の中では一番の品揃えだったが、やはり値段の魅力はない。結局、Red RocksとIndian Creekの立派なトポだけを購入した。

スーパー(VONS)で買出しをしてからキャンプサイトへ戻った。VONSは、Safewayの系列のようで、ここでもSafewayカードを使った割引きを受けることができた。

鶏肉ともやしを仕入れて、夜はバルサミコと醤油を混ぜた即席ポン酢をつけて水炊きを堪能する。ずっと牛か豚を焼いてばかりだったので、まろやかな味に癒された。



6/20
Fairview Domeのアプローチ偵察&ボルダリング

私は疲れが抜けきっていな感じ。限りある資源の指皮も回復させる必要がある。Bさんからはボルダリングに専念する一日がほしい、との希望も言われていたのでこの日をボルダリングの日とすることにした。

Tuolumne Bouldering
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若かりしJohn BacharやRon Kaukが登っている写真も多数掲載されている。


Fairview Domeの込み具合も確認するため、朝早くに偵察へ向かう。6時起きだったが、あまりの寒さにダウンジャケットをまとって気候の違いを改めて実感する。朝食の準備もなかなかはかどらない。

8:20に壁の取付きについてみると、すでに4パーティがRegular Routeを登っていた。今日は土曜日。日曜日はもっと込み合うことが予想される。明後日の月曜日にできるだけ早く登りに来ることを決めて偵察を終えた。


駐車スペースからわずか20分で大きな壁へ
(ほぼ中央のラインを登っていく)
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偵察を終えていざボルダリングへ。陽射しは強いがあまり汗をかくこともなくとても快適だった。

Olmsteadエリアのクラック課題(V1)を登るBさん
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Olmsteadの展望スペースからはHalf Domeも見えた。
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大木に食べられてしまったような石
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The KnobsエリアのEliminator Boulder
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私はSnake Eyes(V2)は登ることができたが、それ以上の課題に対しては力不足だった。

BさんはKauk Problem(V5)と、シットスタートのV6バージョンにも成功。海外で登った初めてのV6課題に、岩の上で喜びを爆発させていた。いい登りを見ることができて自分もうれしくなった。


Kauk Problemを登るBさん
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エィドリアーーーン!
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午後、キャンプサイトのレンジャーと話しているとTuolumneで常に混んでいる人気クラシックルートは、Regular Route、West Crack、Cathedral Peakの3本で土日も平日もあまり関係ないとのこと。今回はそのうちの2本を登る予定で、初めて来たところで登るルートとしては良い選択だったようだが、込み具合だけが心配だ。



6/21
West Crack (Daff Dome)(5.9)(全5p)を交互にリードして登る。

5:30起床 →7:30ごろ取付き →7:45登攀開始 →10:15山頂 →車まで戻り11:15

West Crackの遠景
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ドームの左側、ハングを避けるようにクラックが伸びている。チョークで遠くからでもうっすらと白くなっているのが見える。


実際には4ピッチで終了。風は強い一日で午前中は日も当たらないので、ずっと上着を着たままの登攀となった。このルートの初登者は、Wally ReedとFrank Sacherer。今回ツアーでは彼らの足跡をたどることことが多かった。

登攀そのものはそれほど難しくないが、ここを登れという感じで続いているクラックを登って、自然に山頂に導かれていく登攀はやはり気持ちがいい。明日登る予定のFairview Domeも大きく見える。明日も同じような素晴らしいラインのようで、しかもスケールははるかに大きい。今回のツアーのクライマックスに向けて、いよいよ気持ちも盛り上がってくる。

West Crackの登攀のようす
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山頂にて
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Fairview Domeを眺める。明日はあれを登るぞ。
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エリアを移して、Bさんが気になっているルーフクラックのHigh Heel(5.12b)の偵察へ向かう。アプローチで少し迷ってしまい、予想以上にくたびれてしまう。どうにかこうにかでたどり着いたものの下部が濡れていて、ちょっと取り付き気にはならない。周辺見学のみでこの日を終えて明日に備えた。



6/22
Regular Route (Fairview Dome)(5.9)(全12p)を交互にリードして登る。なお、このルートの初登者の一人はまたもや登場のWally Reedだ。

5:30起床 →7:30ごろ取付き (先行パーティ待機)
→8:00登攀開始 (途中、1.5時間ほど待機)→15:30山頂

1ピッチ目を登る先行パーティの若者たち
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朝は寒くてこれ以上早くは行動開始できない。タッチの差で先頭にはなれず2番目のスタート。

のはずだったが、フリーソロで登っていくクライマーに抜かされた。最初は理解できず、後続パーティのメンバーを後ろに置いてこの人はどうするのだろう?と思っていたが、ルートの途中でダウンジャケットを脱いで腰に巻く余裕をみせて、あれよあれよと登っていく。先行パーティの若者に聞いたところケンタッキー州からやってきたソロクライマーとのことだった。

水色のTシャツの若者がビレイしているのは誰でしょう?
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確かに難しいグレードではなく、やってやれないことはないようにも思うが、実際に目の当りにするのはやはり驚きだった。

ついでに若者が教えてくれたのだが、John Bacharがこのルートを17分でフリーソロしたのが最速記録とのこと。普通に登ると6時間ぐらいはかかるのに!New Dimensionsに続いて、彼のフリーソロの足跡に触れる体験にもなった。


ルートは素晴らしいの一言に尽きる。クライミングの難しいセクションは前半の数ピッチで終了してしまうが、岩壁の中央をほぼ一直線に登って、山頂に出ると初めて360°の展望が広がる。下降は、反対側の緩やかな、延々と続く月面のような一枚岩を歩いて下降する。

遠くには今回登らなかったCathedral Peakも見えて、Tuolumneでのクライミングの素晴らしいフィナーレとなった。

Regular Routeの登攀のようす
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山頂にて
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Cathedral Peak
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月面のような雰囲気の巨大な一枚岩の上を歩いて下降する
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キャンプサイトに戻って祝杯を挙げる。
木の合間から漏れる夕日が何ともいえず心地よかった。
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6/23
短いようで長かった今回のツアーもいよいよ明日でおしまい。
この日は、帰路の長旅に備えるためにValleyまで下って何が何でもシャワーを浴びてさっぱりしておかねばならない。疲れも残っているが、やり残した課題のThe Enema(5.11b)への想いが疲れをごまかしてくれる。

Bさんは昨日までで充分に満足とのことで、1ピッチ目のフォローと2ピッチ目のビレイを快諾してくれた。通い慣れてきたCookieへと向かう。限られた時間ではたして登れるだろうか。


1ピッチ目を登る私
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1回目(通算3回目)トライ:
下部のハングした5.10cのセクションで、いきなりテンションをかけてしまう。前回はここで落ちることはなかったので、後退してしまった。気持ちを切り替えて、上部の核心部のムーブを徹底的に探って固める。もはやなりふり構っていられない。

2回目トライ:
このトライで無事にレッドポイントすることができた。たかがイレブン、されどイレブン。私にとってはYosemiteで初めての5.11を登れた。取り付く前に、Bさんのアドバイスもあってギアラックの向きを反対側に変更した。自分でもその方がいいかもと感じていたが、時間的にも体力的にも最終トライとなるであろうこのタイミングで進んで何かを変える気にはなれなかったところで、うまく背中を押してもらえるアドバイスとなった。Bさん、ありがとう。

どこかで見たようなポーズで大喜びの私
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夕食は奮発してサーロインステーキ肉を購入。わさび醤油をつけて舌鼓を打ってビールで乾杯。あぁ、Yosemiteに来てよかった!

寝袋に入ってからも興奮が冷めやらぬせいか、なかなか寝付くことができなかった。まだ行ったことがないエリアのトポを読んで妄想にふけってしまうとますます寝れなくなってしまう。



6/24
渋滞と途中の道路工事が怖かったので、5:30起きで撤収して帰路につく。Safewayで、ぱぱっとお土産を買って、時間ぎりぎりでSan Franciscoの空港にたどり着く。もともと搭乗予定だったLA行の国内線が遅れていたため、ばたばたで1本前の飛行機に飛び乗る。LAから羽田への国際線に乗ることができて、楽しかった今回のツアーも終了した。

さらばYosemite!
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振り返ってみて、密度の濃いとても楽しい時間だった。今の時点で出せるものはすべて出し切ってきた気がする。またYosemiteへ行くのか?知らないエリアへ行くのか?先のことはまだ分からないし絶対に行くと言いきるだけの懐事情でもないが、「いつかまたどこか遠くへ行きたい」という心の火を灯したまま、しばらくは国内で腕を磨いていこうと思う。


(余談)我が家へのお土産は熊さんシャツが一番のヒットだった。
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東海山岳会 海外山行